神戸の魔王

 こんな遅うなって、風吹いとるゆうのに誰が馬走らせてんのやろ。
 それぁ父子やってんな。おとんはビビんりょる子をガッチリ抱きかかえとったんや。

父   「おまえ、何顔かくっしょんねん」
子   「おとん魔王が見えへんの。かんむりかぶって、長い服を着とぉ・・・」
父   「あれ霧やがな・・・」
魔王 「めんこい坊や、一緒においで。おもろい遊びしょうか。岸辺にはええ花が咲いとうし、金の服を俺のおかんがようけ用意しとるからな。」
子  「おとん、おとん!きこえへんの。魔王がぼくになんやゆうとる。」
父  「ちょう落ち着けて、枯葉が風でガサガサゆうとるだけやがな。」
魔王 「ええ子や、俺と来んか。俺の娘がおるさかい。お前を揺らして踊って歌おやないか。」
子 「おとん、おとん!見えへんの、あの暗いとこに魔王の娘がおるやんか!」
父 「見えるで。でも、あれ木ィやんか。」
魔王「好っきゃで、坊や。お前のめんこい姿がたまらへん。無理やり連れてっちゃろか!」
子 「おとん、おとん!魔王がぼくをつかまえよる!魔王がぼくをひどい目にあわせよる!」

 おとんはぎょっとして、馬をおもくそ走らせてん。あえぐ子供を両腕でもって、やっとの思いで館に着いてんけどな・・・
 腕に抱えられた子はもう死んどってんや。